ニッケル(WC-Ni系)

目次

ニッケルは、超硬合金の原料です。このページでは、ニッケルを結合剤とするWC-Ni系超硬合金の特性や用途、製造方法など、基礎知識を解説します。

ニッケル(WC-Ni系)
超硬合金の特性は?

ニッケル(WC-Ni系)は、炭化タングステン(WC)を主成分とし、結合剤にニッケル(Ni)を使用している複合材料です。
一般的な超硬合金は、結合剤にコバルト(Co)を使用する「WC-Co系」が主流ですが、ニッケルを添加すると耐食性に優れ、非磁性になります

硬度・強度・耐摩耗性

ニッケル(WC-Ni系)の硬度はメーカーによって異なり、HRA硬度が約89~95HRA(※)となるメーカーもあります。抗折力は約1.4GPa以上あり、炭化タングステンの特性である高硬度・高強度・耐摩耗性を保持しています。

※参照元:日本タングステン(https://www.nittan.co.jp/products/hard_metal_002_003.html)

靭性・ヤング率

破壊靭性は5.3~26.8MPa√m(※)で、炭化タングステンの粒径によって数値が変動します。ヤング率は530~640GPa(※)で高い剛性を持っていますが、ニッケルの含有量が増加するとヤング率は低下します。

※参照元:日本タングステン(https://www.nittan.co.jp/products/hard_metal_002_003.html)

耐熱性

耐熱性に優れ、ニッケル(Ni)を添加することにより、耐熱性・強度を高める特性を持っています。900℃近い切削点でも硬度低下が緩やかで、工具の交換サイクルを延ばすことが可能です。

耐酸化性

ニッケルは酸化に強い性質を持っており、高温耐酸化性を向上させるために、クロム(Cr)やアルミニウム(Al)などを添加することが一般的です。酸化皮膜を形成し、基材の酸化を防ぐ役割を果たします。

耐薬品性

WC-Ni系は、アルカリ・海水などへの耐性が高く、腐食環境下でも溶出しにくい特性を持っています。

化学薬品を多く使用する製造工程や、塩水環境下での使用にも適しており、化学プラント向けのシール部品や、耐食性が求められる設備構成部材として活用されています。

原料の含有量・組み合わせで
超硬合金の特性は変わる

ニッケル(WC-Ni系)超硬合金は、コバルトの含有量と炭化タングステンの粒径によって特性が変わるため、目的に応じた規格を選択しましょう。

超硬合金メーカーには、それぞれに特徴があり、扱う材種も異なります。本サイトでは、業種別によくある課題を解決できる超硬合金メーカーを紹介しているので、サプライヤー選定や課題解決の一助としてご活用ください。

ニッケル(WC-Ni系)
超硬合金の主な用途

ニッケル(WC-Ni系)超硬合金は、硬さと靭性、耐熱性、耐食性をバランス良く兼ね備えることから、以下のような製品・環境で多く使用されています。

化学・石油化学・食品業界 耐食性が求められる製造ラインの治具、バルブ部品、ポンプ部品
医療機器・電子機器業界 非磁性が求められる部品や工具
航空宇宙・防衛産業 高温・高圧環境下での耐摩耗部品、耐食部品
鉱業 掘削工具、穿孔工具、耐摩耗部品
金型・成形 金型部品、成形工具

本サイトでは、超硬合金の用途についてまとめていますので、ご参照ください。

ニッケル(WC-Ni系)
超硬合金の製造方法

WC-Ni系超硬合金は、粉末冶金法によって製造されます。一般的な工程は以下の通りです。

  1. 炭化タングステン・ニッケルなどの添加物を選択し配合。
  2. 原料粉末を均一に混合・粉砕。
  3. 混合した粉末を乾燥させ、適切な粒度の造粒体を作成。
  4. 造粒した粉末をプレス成形し、圧粉成形をする。
  5. 形状安定性を高めるため、低温で予備焼結を行う。
  6. 加工済みの成形体を、予備焼結より高い温度で焼結。
  7. 必要に応じて研削やコーティングなどの仕上げ加工を実施。

この焼結プロセスによって、Niバインダーが粒子間を効果的に接合し、高い機械特性と耐食性を持つWC-Ni系の超硬合金となります。

ニッケル(WC-Ni系)
超硬合金の特徴

ニッケル(WC-Ni系)超硬合金の代表的な特徴をご紹介します。

▼左右にスクロールできます。
高耐食性 耐食性に優れ、クロム(Cr)を添加したWC-Ni-Cr系超硬合金では、耐食性がさらに向上。
酸性や塩分を含む環境下でも、安定した性能を維持できます。
非磁性 ニッケルを結合相とすることで、非磁性を示します。
非磁性であることにより、磁気による干渉を防ぎ、製品の精度や安全性を確保することが可能です。

ニッケル(WC-Ni系)と
炭化タングステンの違い

炭化タングステンは超硬合金の主成分ですが、単体では超硬合金になりません。結合剤の1つであるニッケルを添加することでニッケル(WC-Ni)系超硬合金となります。

炭化タングステンは高硬度と耐摩耗性が高く、乾式切削や耐摩耗部材などに適しています。ニッケル(WC-Ni)系超硬合金は耐食性と非磁性の特性を持つため、耐食+摩耗耐性を求められる化学・石油化学や、非磁性を求められる医療・電子などに適しています

ニッケル(WC-Ni系)
のまとめ

ニッケル(WC-Ni系)超硬合金を活用する場合、まず用途ごとに硬度・靭性・耐食性・耐熱性・非磁性などの優先度を明確化し、ニッケル含有量や粒径、性能を安定供給できるメーカーを選定する必要があります。

自社の加工課題に対し、工具や部品の素材から見直しを検討されている方は、本サイトの「課題別おすすめメーカー」情報をご活用ください。

【業種別】超硬合金メーカー3選
大量生産に対応する 自動車部品・金型メーカー
向け
トーカロイ
トーカロイ
引用元:トーカロイ公式HP(https://www.tokaloy.co.jp/)  
高刃立ちの素材で、切断品質と
寿命を両立し大量生産に応える

超々微粒子構造と最大HRA95.0の高硬度設計により、大量生産を行う環境でも切削品質が長時間持続。工具交換頻度の抑制による高稼働で生産性向上が可能。

金型の寿命を約55倍、刃物の寿命を約100倍に改善(※)した実績があり、工具の交換頻度を軽減。

大型・重量部品を扱う 構造部品メーカー
向け
ノトアロイ
ノトアロイ
引用元:ノトアロイ公式HP(https://www.notoalloy.co.jp/)
重量・長尺の超硬部品にも対応する
大物加工の頼れる選択肢

外径φ500mm、長さ1,000mmに対応する大物超硬加工設備を備え、重量物や長尺・高荷重部品の加工をピンホールが除去された高品質で提供できる。

他社で断られることの多い、重機部品における金型の大型化・複雑形状に応える供給体制を整備。

非磁性・クリーン対応が必須な 医療・分析機器メーカー
向け
シルバーロイ
シルバーロイ
引用元:シルバーロイ公式HP(http://www.silveralloy.co.jp/jp/index.htm)
非磁性で高硬度・高強度を両立
磁場に左右されない精密超硬材

医療・電子・真空機器などで、非磁性かつ高硬度・高耐蝕性が必要な環境に対し、非磁性超硬合金を提供。

非磁性と塩分・化学薬品に対する高耐蝕性、HRA90.8・抗折力約4,400MPaの強度により、磁場干渉や薬液劣化を防ぎ、精密部品の高寿命化に寄与。

※参照元:トーカロイ公式HP(https://www.tokaloy.co.jp/proposal