鉄(WC-Fe系)

目次

鉄(Fe)は、超硬合金の原料です。このページでは、鉄(Fe)を結合剤とするWC-Fe系超硬合金の特性や用途、製造方法など、基礎知識を解説します。

鉄(WC-Fe系)
超硬合金の特性は?

炭化タングステンを主成分とし、結合剤に鉄(Fe)を添加した超硬合金の複合材料です。
炭化タングステンが持つ高い硬度と、鉄が持つ優れた靭性を兼ね備えており、耐摩耗性や耐衝撃性に非常に優れた特性を発揮します。

超硬合金はコバルト・ニッケル・クロムなどが結合剤として使用されますが、希少性が高くコストも高額となるため、資源が豊富な鉄を用いた超硬合金の開発が進められています

硬度・強度・耐摩耗性

WC-Fe系超硬合金は、構成成分である炭化タングステン(WC)の高い硬度により、優れた耐摩耗性を発揮。結合剤として使用される鉄(Fe)の含有量が増えると、硬度は低下する傾向にあります。

※参照元:広島市工業技術センター(https://www.itc.city.hiroshima.jp/l030401h21-01.html)

靭性・ヤング率

鉄(Fe)を結合剤として用いることで、炭化タングステン粒子間の橋渡し役となり、全体の靭性が向上します。

鉄(Fe)の含有量が増えると靭性が増し、延性的な変形・破壊挙動が強化される一方で、ヤング率は低下する特性を持っています。

耐熱性

鉄(Fe)だけではなく、さらに結合剤を添加することで耐熱性を高めることが可能です。
鉄+アルミニウムを添加したFeAl系の場合、高温下でも緻密性を維持し、炭化タングステン含有率に左右されない高強度を保持しています。

※参照元:広島市工業技術センター(https://www.itc.city.hiroshima.jp/l030401h21-01.html)

耐酸化性

他の結合剤を添加することで、耐酸化性を高めることが可能です。クロムを添加したWC-(Fe-Cr-C)系の場合、WC-Co系より高温での酸化耐性に優れています。

コバルトを添加するWC-Co-Fe系の場合、鉄を加えることで安定性が高まり、劣化を抑制します。コバルト(Co)が多いほど酸化開始温度は低下するため、鉄(Fe)とのバランス設計が重要です。

耐薬品性

塩酸・硫酸に対しては、コバルト(WC-Co系)超硬合金と同等またはやや劣る耐食性を持ちます。硝酸(HNO₃)に対しては腐食率が高いことから、酸の種類によって耐性が異なります。

※参照元:J-STAGE(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspm1947/14/2/14_2_86/_article/-char/ja/)

原料の含有量・組み合わせで
超硬合金の特性は変わる

鉄(Fe)以外にコバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)などを添加することで、耐熱性・耐酸化性などを高めることが可能です。

超硬合金メーカーには、それぞれに特徴があり、扱う材種も異なります。本サイトでは、業種別によくある課題を解決できる超硬合金メーカーを紹介しているので、サプライヤー選定や課題解決の一助としてご活用ください。

鉄(WC-Fe系)
超硬合金の主な用途

優れた硬さ・靭性・耐摩耗性から、以下の分野で導入されています。

自動車・航空など 工作機械・切削工具
採掘・石油ガス・建設 ハードフェーシング層工具
鉄道インフラ レール
再生可能エネルギー 風力タービンギア
農業・土木 耕耘爪、スクレーパブレード、
シュレッダハンマーなど

本サイトでは、超硬合金の用途についてまとめていますので、ご参照ください。

鉄(WC-Fe系)
超硬合金の製造方法

WC-Fe系超硬合金は、以下の工程で製造されます。

  1. 炭化タングステン・鉄などの添加物を選択し配合。
  2. 原料粉末を均一に混合・粉砕。
  3. 混合した粉末を乾燥させ、適切な粒度に調整。
  4. 造粒した粉末を圧粉成形する。
  5. 低温で予備焼結を実施。
  6. 加工済みの成形体を、予備焼結より高温度で実施。
  7. 必要に応じて研削やコーティングなどの仕上げを実施。

鉄(WC-Fe系)超硬合金の特徴

鉄(WC-Fe系)超硬合金の代表的な特徴をご紹介します。

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コバルト(Cr)やクロム(Cr)に変わる結合剤 鉄は資源が豊富で安価であるため、希少・規制化が進むコバルト(Co)・クロム(Cr)・ニッケル(Ni)に代わる結合剤。
環境負荷の低減 鉄は毒性が低く、環境や作業者への影響が少ないため、環境負荷の低減につながります。

鉄(WC-Fe系)超硬合金と
炭化タングステンの違い

炭化タングステンは、超硬合金の主成分で、非常に高い硬度と耐摩耗性を持ちますが、靱性や加工性に課題があります。
一方、鉄(WC-Fe系)超硬合金は、炭化タングステンに鉄(Fe)を添加した材種で、鉄が靭性を向上させ、加工性も改善します。

硬度は炭化タングステンの含有量で調整でき、コバルトやクロムを添加することで、耐酸化性や耐薬品性も高めることが可能です。

鉄(WC-Fe系)のまとめ

鉄(WC-Fe系)超硬合金は、従来のWC-Co系やWC–Ni–Cr系に代わる材種として注目されています。耐熱・耐酸化性の向上だけではなく、さらなる高硬度・高強度化の研究が進められている材種です。

コストに課題を抱え、工具や部品の素材から見直しを検討されている方は、鉄(WC-Fe系)の選択もひとつの手と言えるでしょう。本メディアでは業種別におすすめの超硬合金メーカーを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

【業種別】超硬合金メーカー3選
大量生産に対応する 自動車部品・金型メーカー
向け
トーカロイ
トーカロイ
引用元:トーカロイ公式HP(https://www.tokaloy.co.jp/)  
高刃立ちの素材で、切断品質と
寿命を両立し大量生産に応える

超々微粒子構造と最大HRA95.0の高硬度設計により、大量生産を行う環境でも切削品質が長時間持続。工具交換頻度の抑制による高稼働で生産性向上が可能。

金型の寿命を約55倍、刃物の寿命を約100倍に改善(※)した実績があり、工具の交換頻度を軽減。

大型・重量部品を扱う 構造部品メーカー
向け
ノトアロイ
ノトアロイ
引用元:ノトアロイ公式HP(https://www.notoalloy.co.jp/)
重量・長尺の超硬部品にも対応する
大物加工の頼れる選択肢

外径φ500mm、長さ1,000mmに対応する大物超硬加工設備を備え、重量物や長尺・高荷重部品の加工をピンホールが除去された高品質で提供できる。

他社で断られることの多い、重機部品における金型の大型化・複雑形状に応える供給体制を整備。

非磁性・クリーン対応が必須な 医療・分析機器メーカー
向け
シルバーロイ
シルバーロイ
引用元:シルバーロイ公式HP(http://www.silveralloy.co.jp/jp/index.htm)
非磁性で高硬度・高強度を両立
磁場に左右されない精密超硬材

医療・電子・真空機器などで、非磁性かつ高硬度・高耐蝕性が必要な環境に対し、非磁性超硬合金を提供。

非磁性と塩分・化学薬品に対する高耐蝕性、HRA90.8・抗折力約4,400MPaの強度により、磁場干渉や薬液劣化を防ぎ、精密部品の高寿命化に寄与。

※参照元:トーカロイ公式HP(https://www.tokaloy.co.jp/proposal