炭化タングステン(WC)

目次

炭化タングステン(WC)は超硬合金の主成分です。本ページでは、炭化タングステン(WC)を主成分とする超硬合金の特性・用途・製造方法など基礎知識を解説します。

炭化タングステンを
主成分とする
超硬合金の特性は?

炭化タングステン(WC)粉末にコバルト(Co)などの金属結合剤を加え、約1,300〜1,500℃・高圧で焼結した複合材料(※)です。
硬質相の炭化タングステンが高硬度を担い、結合相のコバルトが靭性(粘り)を担うことで、金属工具では得られない硬度と、純セラミックスより高い靭性(割れにくさ)を両立します。

高速切削や難削材加工に適し、旋盤用インサートチップ、プリント基板用微細ドリル、鉱山用ビットなどで採用。工具交換回数の削減と、加工時間の短縮に大きく貢献しています。

※参照元:富士ダイス(https://www.fujidie.co.jp/products/cemented_carbide)

硬度・強度・耐摩耗性

炭化タングステン自体のモース硬度は、ダイヤモンドに非常に近い硬さを持つ値の「9」。ビッカース硬度では約2,400HV(※)と高い数値を持っています。

炭化タングステン(WC)を主成分とする超硬合金の抗折力は約2GPa以上で、曲げ負荷に対しても壊れにくく、高硬度・高強度ゆえの優れた耐摩耗性により他の硬質材料加工で威力を発揮します。

※参照元:精密超硬加工(https://www.carbide-products.com/ja/ブログ/炭化タングステンの硬度とダイヤモンドの比較/)

靭性・ヤング率

破壊靭性値は、およそ8~20MPa・m1/2(※1)、ヤング率は約400~600GPa(※2)で、鉄鋼の約2~3倍です。
コバルトが粒子間でバリアとなり、進展する亀裂を吸収・逸らすことで高剛性と靭性を両立します。ミクロン単位のたわみ制御が求められる高送りカッターでも、安定した切削が可能です。

(※1)参照元:日本ハードメタル(https://www.nhm.co.jp/technical_info/whatis/)

(※2)参照元:富士ダイス(https://www.fujidie.co.jp/products/cemented_carbide)

耐熱性

約700℃でも硬度を保持し、空気中でも500℃程度までは性能劣化が小さいとされています。熱安定性に優れ、寸法変化を抑えながら高速切削の高温摩擦に耐えます。

耐酸化性

常温では酸化しにくいものの、空気中500℃以上で三酸化タングステン(WO₃)が生成しやすくなり、700℃付近で酸化が急進します。適切な冷却で、酸化損耗を大幅に抑制できます。

耐薬品性

希酸・希アルカリ・水・油にはほとんど侵されませんが、濃硝酸やフッ素ガスなど強酸化性媒体では腐食が進む恐れがあります。

原料の含有量・組み合わせで
超硬合金の特性は変わる

炭化タングステンを主成分とする超硬合金は、このように高硬度・高強度・高靭性・耐熱性・耐薬品性をバランス良く備えていますが、炭化タングステンの粒径や含有量、組み合わせる金属結合剤によって、特性は大きく変化します。

超硬合金メーカーには、それぞれに特徴があり、扱う材種も異なります。本サイトでは、業種別に超硬合金メーカーを紹介しているので、サプライヤー選定や課題解決の一助としてご活用ください。

炭化タングステン(WC)
超硬合金の主な用途

優れた硬さと耐摩耗性から、以下の分野で幅広く使用されています。

製造・加工 切削工具、金属プレス金型
石油・ガス掘削 ビット、坑内工具
鉱業 ロックドリル、
トンネル掘進機ビット
建設・土木 建設機械用工具先端部

本サイトでは、超硬合金の用途についてまとめていますので、ご参照ください。

炭化タングステン(WC)
超硬合金の製造方法

炭化タングステンを主成分とする超硬合金の製造は、主に以下の工程で行われます。

  1. タングステン粉末と、結合剤としてのコバルト粉末を準備。
  2. 所定の割合で混合し、ボールミルやアトライターなどの機械で均一に粉砕します。
  3. 混合した粉末を乾燥させ、適切な粒径の造粒体を作成します。
  4. 造粒体を金型に入れ、油圧プレス機や冷間等方圧(CIP)装置で圧縮。所定の形状に成形します。
  5. 成形体を約600~900℃で加熱し、形状の安定性を高めます。
  6. 最終形状に加工された成形体を、約1300~1500℃の高温で真空または不活性ガス雰囲気中で焼結します。
  7. 必要に応じて研削やコーティングなどの仕上げ加工を行います。

炭化タングステンを主成分
とする超硬合金の特徴

炭化タングステンを主成分とする超硬合金の代表的な特徴をご紹介します。

▼左右にスクロールできます。
高硬度 精密ドリルや旋盤用インサートチップなど、高精度かつ長寿命が求められる工具で力を発揮。
ガラス繊維入り樹脂や焼結材などの硬質素材の切削に適しています。
靭性と剛性の両立 金属的な「ねばり」とセラミック的な「しなりにくさ」の両立を実現。
自動車部品や航空機部材の高効率加工に向いています。
優れた耐摩耗性 700℃前後でも高硬度を維持できる耐熱特性を持っています。
熱安定性により、高速切削時の高温摩擦による寸法変化や摩耗を抑制
乾式加工や高回転のCNC切削、難削材加工に適しています。

タングステンと
炭化タングステンの違い

タングステン(W)は、融点が高く熱膨張率は低いという特性を持つ金属。炭化タングステンは、タングステンと炭素を組み合わせた化合物です。

タングステンは高温環境での使用に適した金属であり、電気・電子部品や高温部品に広く利用されています。一方、炭化タングステンはその卓越した硬度と耐摩耗性から、切削工具や耐摩耗部品として様々な産業で重宝されています。

素材特性と適用分野が明確に分かれている点が大きな違いです。

炭化タングステン(WC)
のまとめ

炭化タングステンは、コバルトといった結合材と組み合わせることで、硬度と靭性を併せ持つ超硬合金になります。
高速・高精度加工を安定化させる超硬金は、製造・資源開発・建設など、様々な業界で工具寿命と生産効率を大幅に引き上げるポテンシャルを持っています。

自社の加工課題に対し、工具や部品の素材から見直しを検討されている方は、本サイトの「課題別おすすめメーカー」情報をぜひご活用ください。

【業種別】超硬合金メーカー3選
大量生産に対応する 自動車部品・金型メーカー
向け
トーカロイ
トーカロイ
引用元:トーカロイ公式HP(https://www.tokaloy.co.jp/)  
高刃立ちの素材で、切断品質と
寿命を両立し大量生産に応える

超々微粒子構造と最大HRA95.0の高硬度設計により、大量生産を行う環境でも切削品質が長時間持続。工具交換頻度の抑制による高稼働で生産性向上が可能。

金型の寿命を約55倍、刃物の寿命を約100倍に改善(※)した実績があり、工具の交換頻度を軽減。

大型・重量部品を扱う 構造部品メーカー
向け
ノトアロイ
ノトアロイ
引用元:ノトアロイ公式HP(https://www.notoalloy.co.jp/)
重量・長尺の超硬部品にも対応する
大物加工の頼れる選択肢

外径φ500mm、長さ1,000mmに対応する大物超硬加工設備を備え、重量物や長尺・高荷重部品の加工をピンホールが除去された高品質で提供できる。

他社で断られることの多い、重機部品における金型の大型化・複雑形状に応える供給体制を整備。

非磁性・クリーン対応が必須な 医療・分析機器メーカー
向け
シルバーロイ
シルバーロイ
引用元:シルバーロイ公式HP(http://www.silveralloy.co.jp/jp/index.htm)
非磁性で高硬度・高強度を両立
磁場に左右されない精密超硬材

医療・電子・真空機器などで、非磁性かつ高硬度・高耐蝕性が必要な環境に対し、非磁性超硬合金を提供。

非磁性と塩分・化学薬品に対する高耐蝕性、HRA90.8・抗折力約4,400MPaの強度により、磁場干渉や薬液劣化を防ぎ、精密部品の高寿命化に寄与。

※参照元:トーカロイ公式HP(https://www.tokaloy.co.jp/proposal